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大阪高等裁判所 昭和25年(ネ)35号 判決 1951年5月12日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が兵庫県美嚢郡別所村石野字山の下八八八番地の一原野二畝十九歩について、昭和二四年三月九日附公告によつてした買収処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張は、控訴人において、自作農創設特別措置法第九条第一項但書の規定によれば買収令書を交付することができないときに限り公告を以て令書の交付に代えることができるものであり令書の交付をすることができない場合でないのに、交付をしないでなされた公告はその効力を生じない。控訴人は適法に令書を交付せられたことなく、又適法に交付せられた場合にその受領を拒絶することを予め表示したことはない。もつとも控訴人は別所村農地委員会から買収令書交付の通知のあつたことを昭和二四年二月九日知り又同月一〇日過ぎ別所村役場で別所村農地委員会書記から買収令書の来ていることを聞いたことはあるが、控訴人は本件買収を不法と信じており、令書を送達せられたら格別、進んで村農地委員会へ受取に行く義務はないものと考えていた。以上のように買収令書は正当な手続によつて控訴人に交付せられようとしたことなく、控訴人がこれを拒絶したこともない。仮にそうでないとしても拒絶するのに正当な事由があつたものであるから、更に送達等他の方法によつて令書を控訴人の了知できる状態におく必要があり、この手続を経ないで直ちに公告をして令書交付に代えることはできない。従つて本件公告は買収令書を交付したのと同一の法律効果を生ぜず、控訴人が公告の日に買収処分のあつたことを知つたものと推定することはできないと述べ、被控訴人において、別所村農地委員会から控訴人に買収令書受領方を通知したが控訴人は昭和二四年二月一四日頃その受領を拒絶したので、令書の交付をすることができないものとして公告したものであるから、その適法なことは明らかであると述べた外、いずれも原判決の事実の部に掲げるとおりであるから、ここにこれを引用する。

(立証省略)

理由

まず本訴が自作農創設特別措置法第四七条の二に定められた期間内に提起せられたものかどうかを考えてみるに、成立に争のない甲第一号証の二によれば、被控訴人は昭和二四年三月九日附兵庫県報において本件土地について同法第九条第一項但書の規定により同条第二項に掲げる事項を公告したことを認めることができる。被控訴人は、控訴人は本件買収令書の受領を拒絶したが右令書は遅くとも昭和二四年三月九日までに控訴人の了知できる状態におかれ即ち控訴人に到達し、控訴人は本件買収処分のあつたことを知つたものであり、右公告はその確認方法に過ぎないから、控訴人が右買収処分のあつたことを知つた日から一箇月以上経過した後に提起せられた本訴は不適法であると主張するが、農地の所有者が買収令書の受領を拒絶したのでその了知できる状態においたというだけでは買収令書の交付があつたとはいえないのであつて、この場合には令書の交付ができないものとして令書の交付に代えて公告すべきものであることは自作農創設特別措置法第九条の規定によつて明らかであるから被控訴人の右主張は採用しない。控訴人は本件買収令書は正当な手続によつて控訴人に交付せられようとしたことなく控訴人がこれを拒絶したこともなく、従つて令書の交付をすることができない場合でないのに、交付をしないでなされた公告はその効力を生じないと主張するけれども、原審証人志原治の証言、控訴人本人の当審における尋問の結果によると、別所村農地委員会から控訴人に本件土地の買収令書の受領方を通知し、昭和二四年二月一四日頃控訴人は同委員会のおかれてある同村役場内で同委員会書記から買収令書の受領方を促がされたが係争中であるからというのでその受領を拒絶したことを認めることができる。このような場合には同法第九条にいわゆる「令書の交付をすることがきないとき」にあたるもので、更に控訴人方に令書を送達することを要しないものといわなければならないから右公告は買収令書の交付と同じく買収処分の効果が生じること明らかである。そして右公告は昭和二四年三月九日附兵庫県報によつてなされたものであるから特別の事情の認められない以上、控訴人も同日頃右買収処分のあつたことを知つたものと推定するのが相当である。控訴人が右公告を知つたのは昭和二四年四月一〇日以後であると主張するけれども、控訴人本人の原審及び当審における尋問の結果中同趣旨の部分は容易に信用できず、甲第一号証の一その他の証拠によつてもこれを確認することはできない。従つて控訴人は昭和二四年三月九日頃本件買収処分のあつたことを知つたものと認める外はないから、その後一箇月以上を経過した同年五月九日提起せられた本訴は不適法であつて、これを却下しなければならない。そうするとこれと同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第八九条を適用して主文のとおり判決する。(昭和二六年五月一二日大阪高等裁判所第二民事部)

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